Nonholonomic Path Planning of Space Robots via Bi-Directional Approach
宇宙ロボットの運動を支配する非ホロノミック性の問題を扱い,その解法を示した初めての論文である。著者らはこの論文に先立って,関連文献[1][2]において,宇宙ロボットの非ホロノミック性を指摘し,その運動制御について議論したが,明確な解法には至らなかった。1989年の国際会議[3]および[4]ではじめて双方向性アプローチが示され,それを雑誌論文としてまとめたものがこの論文である。なお,本論文で提案した双方向アプローチによる宇宙ロボットの非ホロノミック性の制御法は最近,2000年にETSVIIを用いた東北大学(吉田一哉助教授)の宇宙実験において実証された。
自由飛行型宇宙ロボットでは運動量保存則と,角運動量保存則による運動拘束を受ける。このうち運動量保存則は,慣性座標系に対して宇宙ロボットの質量中心位置が不変であるという性質に帰着される。一方,角運動量保存則はこのような位置で表される不変構造に帰着できない性質をもっている。これは数学的には積分不可能性といわれるものであり,このような拘束条件に支配される力学系は非ホロノミック系と呼ばれる。1980年代の終わりごろから,移動ロボットの運動学的拘束が非ホロノミックであることが,知られるようになって来た。ちょうど同じころに,宇宙ロボットのような動力学系の運動方程式に起因する拘束が非ホロノミックであり,その運動に強い非線形性を持つことが注目されるきっかけとなった。
本論文は双方向性アプローチという計算法を提案し,宇宙ロボットの本体の姿勢とマニピュレータの関節角度を任意な初期値から任意な終端値へ,本体の姿勢制御装置を用いずにマニピュレータの関節角度の駆動だけで移動させることのできる運動計画法を示した。また,関連文献[5]では,宇宙ロボットの非ホロノミック性によって生まれる運動学的冗長性の利用法が論じられた。
宇宙ロボットの非ホロノミック性は宇宙ロボットの本体(人工衛星部)が非駆動ということから生まれる性質である。この性質が,非駆動関節を持つマニピュレータの運動においてどのように現れるかを論じたのが関連文献[6][7]である。ここでは水平非駆動関節を持つマニピュレータの運動方程式の可積分性が論じられた。ある特殊な質量分布をもつ場合を除いて,運動方程式を角運動保存則のような1階の微分方程式に帰着させることができず,運動は二次の非ホロノミック拘束を受けることが明らかになった。これによって二次の非ホロノミック性をもつ力学系の運動に関する研究が盛んになるきっかけとなった[13][16][18][19][21][22][24][27][28][31][35][36]。この中で関連論文[21][22][27]では二次の非ホロノミック性を持つシステムがカオス性を示す場合があることが示された。これは[29][38]のような,カオス性を利用した移動ロボットの制御の研究に発展している。
一方で宇宙ロボットの本体の非駆動性が一階の積分を許し,それによって運動量保存則,角運動量保存則が生まれる理由を運動方程式の構造から説明したのが関連論文[17][25]である。
宇宙ロボットの角運動量保存則の元での運動制御については関連論文[20][23][26][30][33][34][37][39]において論じられた。また[12][15]では,姿勢制御装置をもつ宇宙ロボットのエネルギーの回生の問題が議論された。さらに重力の非線形性である傾斜重力場を利用した宇宙構造物の軌道制御の問題を論じたのが関連論文[32]である。宇宙ロボットと類似の三次元の姿勢の非線形制御の問題として,自律水中ロボットの問題がある。これは流体中の運動の非線形性であるが,[8][11]ではこの問題を3次元の運動学的拘束のもとでの運動制御の問題として近似して扱い,トラッキング制御則が提案された。
宇宙ロボットの双方向性アプローチ1:マニピュレータ関節角度のみの変化
宇宙ロボットの双方向性アプローチ2:衛星姿勢のみの変化
宇宙ロボットの落下実験[34][37]
自由関節をもつマニピュレータの制御[21][22][27]